Kirra NEWS  no.5


漆 その2

あまりの痒さと、ひどいカブレに一時は諦めかけていた漆であるか、困難なものほど挑戦したくなるのが人間である。2年間でそれほど大袈裟にはカブレなくなった。その間、3回病院に、1回薬局に世話になった。全身カブレて風呂に入ると痛いわ、痒いわ、気持ちいいわで狂いそうになる。一週間やそこらで治るのでそれなりに楽しめるわけだが、アトピーの人など本当に気の毒に思う。

軍手で作業するので、しみてきた漆で今も指先は真っ黒である。こうなると慣れたとはいえ、ぶつぶつになった二の腕辺りを掻きながら、今もワープロを打っている次第です。

しかし漆の技術的な困難さに比べれば、肉体の苦痛など大したことはないのてある。私が今しているのは、拭き漆または擦り漆と呼ばれる技法で、漆をヘラや刷毛で塗りこみ、乾かないうちに、布で拭き上げるという行為を何回も繰り返すのである。特に技術を要しない技法と言われているが、素人には大変である。

まず、漆は大変不思議に思われるかもしれないが、湿度で乾く。つまり水分と反応して硬化するので、漆風呂と呼ばれる箱に入れるか、大物は湿したシーツで覆いますが、この管理が難しく湿度計よりも経験がものをいうのです。最初の頃は、全く乾かなかったり、湿度を上げ過ぎて漆を変色させたりした。また木地が均等に十分に研磨されてないとムラになるし、木地に直接触れて手の油が付くとそこだけ漆は乾かない。原因が分からないことも多い。箪笥等の大物でトラブルと、時間と労力のロスは膨大なのだ。漆は塗りたては薄い茶色であるが乾くと濃い赤茶色になる。たちが悪いのは最初はまったくムラがわからない。シーツをはずしてムラムラの箪笥が出現すると、私は劇的に不幸になるのである。

そんなわけでこんな神経質な塗料はやめようと何度も思った。細かいことはテキストにもないし、結局自分で修得するしかないのである。もう一つの問題はその労力を製品単価に上乗せして品物か売れるか、結局自分の首を絞めるのではないかという商売上の心配である。

それでも何とか続けたのはその美しい仕上がりである。時間とともに漆が硬化して上品な艶を出すのは喜びである。現在でも漆にまさる化学塗料はないとされている。強度はともかく美しさでは他を圧倒している。入念なオイル仕上げも似たような艶をだしますが、まあ、何でも手間を掛けないとダメということでしょうか。

ここ半年、集中的に漆をやったおかげて大分技術は向上した。ヘラも用途に応じたものが作れだした。箪笥等、複雑な形の物を拭くのはまたコツがいり、結構奥は深いのである。しかし、いざそこそこマスターして出来上がった品物を見ると『まあ、こんなもんかにゃ−』と醒めた私です。

※ご存じのように漆は漆の木に傷を付けてしみ出て来た樹液からできますが、200グラム、大きめの歯磨きチューブ一本分の漆を取ると、樹齢10〜15年のその木は枯れてしまうそうです。漆も製品も大切にしなくてはなりません。

*




桜とミズメザクラ

今回よりまだまだ経験不足ながら、私なりの樹種の感想を述べたいと思う。

桜は正確には大体が山桜である。やや赤褐色の滑らかな肌が特徴で、重くて堅い部類の木だが、刃物は通り良い。粘りもあって、浮世絵の版木や和菓子の木型に使われてきた。地味で落ち着いた味わいがあって、和風の家具に合うと思う。

ミズメサクラは本当はカバの仲間であるが、桜と木目がやや似ているので、カバでは通りが悪いため、そう名付けたと聞いた。桜よりピンクがかって、堅い。私も最初は見分けかつかなかったが、この頃は、その少々水っぽい派手さがいやであった。すっきりしたキャビネット等にはいいかもしれません。狂いか少ないため、用材としても優れています。土地によってはミズメサクラをより珍重するそうです。

そもそも木は同じ樹種でも木味、木質は育った環境により雲泥の差があり一概には優劣はつけ難いのてす。

*




カナダ

昨年久しぶりの海外旅行てカナダに行った。イヌイットの村を訪ねるには冬が近かったし、普通に観光してもつまらない国だし、地方都市の友人宅に2週間ほどホームステイして、地元の木工家と交流したり、スーパーマーケットをのぞいたり、まあカナダの日常を楽しんだ。

僻地ばかり旅行してさたせいかカナダの田舎なんて貧しいものだと思っていた。今は随分事情が違って来ているが、こちらは金満大国日本なのだと。ところが予想は逆だった。

ニュータウンの平均的なサラリーマンの家には大きなガレージが2棟あってリモコンシャッター付きだ。その車寄せに日本車なら10台は停められるたろう。家はツーパイフォーの安普請だか、やたら広く、セントラルヒーティング、ランドリーの設備はほとんど業務用だ。

地下室にはボイラーや食料の備蓄かあって、横型のフリーザーはほとんど牛一頭が入る大きさである。しかも物価は日本の半分て、不動産は数分の一だ。なんか豊かさの違いを見せつけられたというか、GNPってなんだったの、日本人てあくせく働いて一体何なの?と思いました。

それから人間もストレートて気持ちいい。土地に対して人間か少ないからストレスも少ないのではないか。郊外の木工家に電話て見学したい旨伝えると、『隣もそうだから寄ってみろ』と言う。工房を共同で使っているのかと思ったが、15キロ程離れていて驚いた。

*

ハロウィンの頃だったのて、あちこちのパーティーや食事に招かれたが、人種差別もなく、電子辞書の助けを借りなからも音気投合して盛り上がったのだった。ちなみにハロウィン当日、女装していた私はバーの仮装コンテストて優勝した。賞品は百ドルのチケットだった。

食べ物はまずいと思っていたが、これも違った。なんでも旨いのてある。パンや肉に歴史があるせいか、ハンバーガーなんか絶品だった。スーパーの野菜売り場を通るとトマトやピーマンなんかの匂いかプンプンする、忘れかけていたことだ。酒屋に北米産の月桂冠があったので話の種にと買ったのだが、これが上等で驚いた。現地でも人気かあるらしい。

以前から感じている、日本は一番食へ物のまずい国という思いを再確認したのだった。ただ友人の家族にソバを御馳走しようとソバつゆも持って行ったのだが、これをローストビーフにかけると大変おいしく喜ばれた。残念なことに、カナダ人は酒か強いせいかバーはあっても居酒屋はない、やれば成功するのではと友人も言っていた。

世話になったお礼に自分の特技を生かして、そこの家の全く切れない包丁を研ぐことにした。半日かかって3本ほど仕上けたが、機械がないとテコにあわんのて『後はあんたの仕事や』と親父に研ぎ方を伝接した。

帰りにバンクーバーに立ち寄った。散歩していると路地て行き会った車の兄ちゃんはわざわざ止まって、先に行けと目配せする。モノレールに乗ると、苦労して切符を買ったものの、入り口にも出口にも改札口はない、キツネにつままれた気分だ。時々車掌がチェックするのかもしれないが、要は各自を信頼しているということだろう。成熟した大人の社会なのだ。この国に住むのも悪くはないなと本気で思った。しかしカナダ人は地味なので高い家具は売れないそうてす。




正倉院のウソ

正倉院は校倉造りで、断面を三角形に削った丸太を積み重ねて壁が作られている。今でいうログハウスである。その丸太が雨の時には、膨張して湿気を遮断し、晴れの時には、わずかな隙間を生じ外気を入れ、一定の湿度を保ち1200年の長きにわたって宝物を良好な状態で保存した。

という話を聞いた人は多いのではないだろうか。しかし現在これは眉唾説とされつつある。なぜなら、確かに木材は直径が湿度に応じて伸縮するが、丸太は柱に固定されておらず、積み上げられただけなので、壁面の全体の高さが上下することはあっても隙間は空かないのである。むしろ、丸太の荷重が常にかかっているので隙間はまったくないのではないか。ではなぜ宝物は保存できたのか、それには3つの理由があるとされている。

* まずは丘陵の中程に東向きに建てられ高乾燥の環境であるということ、次に床下が3m近い高床式であること。そして最も重要とされているのか長持の存在てある。長持の中の湿度は正倉院内において、はば70%に保たれるという。その証拠に長持に入れられてなかった屏風は全てクズになっているという。

こんなわけで『校倉造り湿度調節説』は怪しいとされている。以下は私の自説ですが、丸太の断面を三角形にしたことになにか、防湿、建物自体の耐久性等意味があるのではと考える。確かに、三角丸太の校倉造りは正倉院の美しい姿の重要なエレメントとなっているが、デザインだけでこのようなことをしたとは考えにくい。大変な労力だし、木取りからしても、もったいないのである。一つには丸太同士の接地面を減らし、単位面積当たりに、より大きな荷重がかかり密閉度を増したのではないか。また表面積を増やすことによって湿気を積極的に排出したのてはないか。単なる丸ログや角ログとの違いは何なのか誰か知りませんか。ちなみに現在宝物は、電気的に管理された鉄筋コンクリートの建物に保管されているそうです。




エコ・カー

エコカーは本当に環境にやさしいのだろうか?

近頃トヨタよりプリウスというエンジンとバッテリーを併用した、いわゆるエコカーが発売された。簡単に言えば、走行中に発生する有害物質が半滅し、ガソリンも半分で済むらしい。しかし広告には都合の良いことばかり書かれていて、寿命がきたバッテリーのリサイクルにはどれだけ環境に負荷がかかりエネルギーが必要なのか、トータルでどれだけ一般車より環境にやさしいのか分からない。

とりわけ滑稽なのは発売にあたって、新聞各紙にトヨタ社の環境に対する取り組みの全面広告がカラーで数回も出された事だ。どのくらいの森林代採面積になるのかも是非載せていたたきたかった。インクも環境に悪そうだ。企業とはこの程度のものか。何ても商品にしてしまう。このような場合だけても小さな広告をうてなかったものか。特別な内容だけに、むしろ効果をあげられたかもしれない。内外の自動車メーカーもこぞってリサイクルなどに力を入れだしたと言っている。リサイクルにも、エネルギーもいればゴミも出る。もともと自動車産業など非常に環境に悪いのである。

ではどうすれは現実に環境に優しいのか?それは皆が一台の車を末長く乗り続けることである。車の使用時よりも、製造、廃棄において環境へのダメージは大きのではないか。メーカーも燃費の向上等の努力は続けなくてはならないが、飽きのこない耐久性のある車を作るべきだ。車は売れなくなり、企業自体も縮小せざるをえないことになるだろうか、仕方ないと思う。消極的な意見のようだが、結構ビジネスチャンスもそこにはあると思う。私の以前のマイカーのトラックは床に穴が開いて、雨の日はジルくなるし、全体に透けてきたので替えたが、今度のトラックもそのくらいは乗るだろう。

先日、車好きの同級と『いよいよ欲しい車がないねえ』と話していた。お互い年をとったのかもしれないが、実際魅力ある車はなくなったし、なんかモノにこだわる時代じやなくなってきたのかもしれない。

*




前のナンバーへ ≪          ≫ 次のナンバーへ