Kirra NEWS  no.11


御案内

 工房のすぐ近くに、展示場を建てています。2度個展をしただけで活用されておらず、このたび毎週土曜の午後のみ開店することになりました。

どうせ私のことですから、お客さんが来ないとすぐ止めてしまうと思われる方も多いと推測されますので、一年は続けると宣言いたします。木工、家具、美術、工芸品等の図書コーナーもつくりました。

私が店番をしていますので、お気軽においで下さい。

*




柱時計のリメイク

 数年前、祖父母の家が取り壊されるさい、柱時計が2台出てきた。同じ型で、裏に私の生まれと同じ昭和34年製造とあった。文字盤にはAICHI TOKEI・60DAYSと書かれていて、一度巻き上げれば、2ヶ月動くことを意味する。後で聞いたことだが、これほど長く動くのは、このメーカーだけで、他社は挑戦したが失敗したという。

おそらく、ゼンマイバネの最終走者で、その後、電池式になったのだろう。

高性能ですが、時代が若いので、箱は木製だが、化粧ベニヤを張り付けてあり、プラスチックの飾りが付いている。骨董市場でこのような柱時計は見向きもされない。しかし、骨董屋の喜ぶ年代物は2、3日おきにネジを巻かなくてはならず、実用性に欠ける。

私はこの柱時計の外装をリメイクすることにした。思い出の品であり、年令が私と同じことも理由だが、なにより2台なので、箱物の制作には効率が良いと考えたのだ。

側板の塗装を落とすと、上等の広葉樹が使われており、そのまま利用した。目の詰まった、タモ材が無造作に黒く塗り込まれているのには、時代を感じる。植林の進む中、広葉樹は無造作に消費されたのだろう。だから、新たに作ったのは前面の扉だけである。

飾りのない、四角い箱なのだが、拭き漆で仕上げて木目が浮き立っている。我ながら上々の出来だ。機関部は調子が良くなかったので修理に出した。

使ってみると、音に非常に神経質な私ですが、チクタク音は気にならないし、ボンボンという時報も、なにかに集中していると全く聞こえない。なかなか良いものです。

先日、知り合いの骨董屋から3台譲り受けた。どれも機関部は不調だが、1台は、解体して油を差すと復活した。だいぶん時計の修理が出来るようになってしまった。全部分解しなくても、機関部を取り外し、綿棒等で掃除してやり、歯車の軸受けに油を差すだけで、3台に1台は正確に時を刻み出す。

後の2台は、ゼンマイが切れていたりして修理を諦め、文字盤と振り子のみを利用してクオーツの機関部を組み込んだ。振り子クオーツなるものが販売されている。このユニットは小さいので、箱のデザインは自由になる。薄くできるので、モダンな感じになります。

1台、1台デザインや、使う木の種類を考えていると採算はとれませんが、楽しい仕事です。

*



ジョージ・ナカシマ その2

 ジョージ・ナカシマは当News no.3でもとり上げている、日系アメリカ人の木工家である。ムクの木の特性を生かした家具を作る。もう亡くなって15年にもなるが、未だに評価は高い。木工仲間ではスター的存在と言えようか。素材を、木組みの構造を大胆に見せて作り上げるのは彼が最初ではなかったのか。(ここでは読者がナカシマの家具を知っている前提で話を進めます)

ナカシマの家具には、多くの木工家が一度は傾倒するのではないだろうか。

木工誌には、ナカシマもどきの家具が多数登場する。私もその1人だ。何回かレプリカに近いものを制作している。しかし、今にして思うに、技術が伴わなかった頃に、寸分の狂いもなく接合されている技への憧れもあったと思われる。

ただ、前回より8年が経過して、その間、私としても及ばずながら、木工道に精進してきたわけで、おのずと見方も違ってきている。

レプリカを作るたびに、妙に納得がいかなかったのは、線がきつ過ぎて、普段の生活になじめないからだ。これからデザインがなされる叩き台のようである。洋家具の本場である、欧米の木工家も私と同じような批判的な意見が多い。

ただし、もう少し柔らかにデザインされていた場合、インパクトのある素材感はなくなってしまうだろう。それは結局今までの家具とは変わらない。ナカシマは十分それを計算していたと思われる。

私の好みでは、木工品は、かっこいいよりちょっと鈍なほうがよい。でも商売を考えると、やっぱりかっこいいほうが良いのかもしれない。

*



欅(ケヤキ)

毎回、私が材料としている木を紹介してきたが、既に11種類に達しており、主だったところは、出尽くしたと思っていた。しかし、調べてみると日本の木の王様、欅が抜けているではないか。おそらく、もう少し経験を積んでからと、先延ばししてきたからだろう。

欅は王様、檜は女王様と言われている。マグロと鯛にも例えられる。後の例えはどうもピンと来ないのだが、色の点では、その通りだ。

植林されている檜や杉に比べれば、欅は稀少木だが、原木市場に出される量は広葉樹では一番多い。これは、建築材、その他にと用途が多いのと、矢張り高価なためだろう。

失礼な話だが、市場の伝票は『欅』以外は、単に『雑』と書かれることが多い。よって、木材商のお目当ては欅であり、あとの材はおまけであり、余技である。営林署から出た欅にいたっては、市場でも上座というか、特別な場所にうやうやしく並べられている。

残念ながら私は欅の丸太の競りに参加したことはない。これと思う丸太はひどく高価な上、多少のギャンブル性もあって、大損することもあるからです。そんな訳で今は製材された板を必要に応じて買っている。それでも座卓にするような、立派な一枚板は買えません。まあそんな、大トロを使ってするのが私の木工ではありませんから。などと負け惜しみを言っております。こと欅の話になるとどうも、ひがみっぽくなっていけません。

しかし欅は、生命力の強い木で、節等があっても腐っていません。殆ど全部使えます。これが『雑』ですと、半分以下しか使えないこともままあります。製品に仕上げても、材は欅ということで、高く売れますので潤沢な資金があれば、あながち高い買い物ではありません。

ただし欅は木味によって、価格は20倍も違います。目の粗い、つまり急速に大きくなった欅は安いのです。このような木は、民家や畑のそばで育ったと考えられます。ベンチの座にぴったりです。座卓を作ってしまうと、大味で下品なものになってしまいます。

ただ、欅の木味を正確に語れるようになるには、10年を要します。よって木材商は皆、欅オタクといえましょう。

そんなこんなで、欅に関する面白い話は枚挙に暇がありません。岩場に育った大木を、木挽き職人が足場を掛け、立ち木のまま製材して吊り降ろしたとか、たった一枚の板を買うために、1万円札のない時代、リュックサックに千円札を詰め込んで出かけたとか・・・・。

檜や杉の大木も確かに素晴らしいのですが、欅には宝探しのような楽しみがあります。

そんな私も大径材ではないのですが、目の込んだ板をコツコツ溜め込んでいます。それで小さいものを作ります。大きいものは、欅の力に頼ることになって、腕の見せ所がありません。

人間国宝の木工家、黒田辰秋は欅に真っ向勝負して素晴らしい大作を残していますが、そりゃー、お客様に財閥が群雄割拠していた時代のことで、今はなかなか難しいでしょう。

 



材料倉庫の散策

材料倉庫には天日乾燥や人工乾燥を終えて、仕上がった板を、立て掛けて保管している。散策と書けば、やたら広いのかと思われるだろうが、むろんそうではない。ただ、元が樹であるためか、なんとなくしっくりくるのだ。

木工家には、乾燥済みの規格化された材料を、必要に応じて買ってくるタイプと、私のように、多種多様な材料をストックするタイプに分かれる。

前者の方が経済的に楽であるし、仕事のやり方として、劣っているとも思わない。木の力に頼るよりもデザイン力で勝負しなければならないからだ。

私が後者になったのは、高知県に乾燥材を供給するシステムがなく、そのようなスタイルで仕事をする先輩もいなかったことと、もともと多種多様な木を排出する土地柄だからだろう。

しかし倉庫代はかかるし、10年も20年も材料をストックするのだから、酔狂である。なんでこうなってしまったのか、今になって考えている。

ただ一つ、良いことがあって、それが『材料倉庫の散策』である。家具の注文もなく、暇で、やる気も失せたとき、散策をする。倉庫には、秘蔵の板から、薪になる運命の端切れまで眠っている。まあ、ここで色々な材料に刺激を受けて、仕事を再開します。

ファイト一発、気分転換に一枚板の座卓に挑戦することもあれば、虫食いの風采の上がらない板で、小箱を作ることもあります。こんな時は、木はありがたいものだと思います。

ちなみに、この倉庫は、地元の有志の方に格安で借りています。伝統工芸の仕事等、今や、このような御好意なくして成り立ちません。家具を買って頂くこと自体、木工芸への義援金のようなものかもしれません。

*


前のナンバーへ ≪          ≫ 次のナンバーへ